お給料アップや賢いお金の使い方などお金についての関心は強いものの、実際どうやってお金と付き合っていけばいいのかわからない、という人は少なくないのでは?
大手化粧品メーカー「エイボン・プロダクツ」の取締役でマクロエコノミストの崔真淑さん。経済という視点から社会と個人をつなげる活動をしています。ウートピ世代でもある崔さんに、働き女子がお金の関係について3回にわたってお話を聞きます。
第1回は、働き女子がお金について考えたほうがいいことです。
マクロエコノミストってどんな仕事?
——お金についての具体的なお話を伺う前に、崔さんのお仕事についてお聞きしたいです。マクロエコノミストというのはどんなことをしているのですか?
崔真淑さん(以下、崔):エコノミストって聞いたことはありますか?
——経済ニュースで分析や解説をしている人たちというイメージなのですが、具体的に何をやっているのかあまりピンときません。
崔:具体的に言うと、経済のどのような動きが起きたのかを分析し、そして日本政府がどんな政策を打つのか、その政策がみんなの生活にどう影響するかを分析する人たちのことです。
——崔さんはエコノミストの前に「マクロ」とつけていますよね。
崔:マクロって「俯瞰する」という意味があるんですが、女性はどうしても近視眼的になりやすい部分があると思うんです。自分や目の前のことだけに集中してしまうというのかな。なので、一歩引いた目で、自分を客観的に見てどういう位置で働いているのかを俯瞰することを強調したい。お金を稼いで社会にどんな影響を与えているのかを俯瞰して考えてほしいということを伝えたかったんです。
あとは、自分が女性であることとミレニアル世代*っていう強みを生かして社会と個人をつなげていきたいなと。
*1980年以降に生まれ、2000年以降に成人した世代。
ミレニアル世代の強みって?
——ウートピ読者の多くもミレニアル世代だと思うんですが、ミレニアル世代が強みになるってどういうことですか?
崔:今の社会は少子高齢化で、なかなかそれを脱却できない状況です。そんな時にミレニアル世代がどう活動することで、日本が変わり、何をすべきかのヒントを訴えていくことが大事なんです。
でも上の世代の方々は、ミレニアル世代にどうアクセスしていいか、さらには何をしてもらうべきかが思案しきれていない方が少なくない。そこで、エコノミストの知見だけではなくて自分自身がミレニアル世代ということを生かして、あらゆる世代に今後の日本経済の課題や施策を、提案していきたいんです。
——そうなんですね。ミレニアル世代って上の世代より少ないから経済の対象から無視されているのかと思ってました。
崔:ミレニアル世代をキーワードにしていないのって日本くらいなんです。でもミレニアル世代は上の世代よりも企業を辞めるかもしれないというリスクが高かったり、ずっとその会社にいようと思っていない人の割合が高いんですね。
でも、企業としては長く働いてもらわないと、企業は材投資を行った資金回収ができないだけでなく、人材投資をさらに躊躇しかねません。ミレニアル世代の人事制度や雇用制度の改革は必要なんです。
——確かに、同じ企業でずっと働くという意識が低いというのは実感としてわかります。
消費という観点から見てもミレニアル世代の特徴というのがあって、トヨタ自動車のライバルはFacebookなんていう方もいるんですよ。つまり、物を所有するより「いいね!」が欲しい。
昔の30代と今の30代では、消費のあり方も想定するライバル企業も変わってきているんです。でも「トヨタのライバルはFBです!」って、社会を支えてきた大企業の上の世代の方々にいきなり言っても共感は難しいと思うんです。
それについて「実はこういう経済データやトレンドがあるんですよ」と論理的に説明すると上の世代の方々も「ふむふむ」と聞いてくれる。上の世代の方々と私たち世代をつなげることをしています。
——なるほど。私たち世代と上の世代をつなぐ橋渡しということですね。
働き女子が知っておいたほうがいい「たった3つのこと」
——では、実際に私たちがお金のことを考えようとした時にどこからアプローチをしていけばよいのでしょうか?
崔:働く女性が知っておいたほうがいいことって3つでいいんです。
——3つだけでいいんですか?
崔:そう。3つでいいんです。まずは、自分の会社のビジネスモデルですね。会社がどうやってお金を稼いでいるかでというだけではなくて、自分の会社のライバル、売上高や営業利益がどう推移しているか。
自分の給料がどう生まれているかを知らないと「なぜ給料上がらないの?」って愚痴るだけになっちゃう。お給料が上がらないなら上がらないで、なぜ上がらないのかを考えてほしいんです。悩むと考えるは違います。
そして二つ目は、給与明細を見ること。給与明細見てますか?
——はい、一応見ています。
崔:偉いですね! どこを見ていますか?
——手取りと保険料や住民税……。そのくらいですかね。
崔:さすが! しっかりされてますね! 今、給与明細が電子化して「まあいっか」って見ない人も多いんです。では、なぜ給与明細を見ないといけないのか。それは日本で何が起きているかを知る手がかりになるからです。
——どういうことですか?
崔:最近、「実質賃金が増えている」というニュースを聞きませんか? でも、なぜか景気回復の感じがしない。それはなぜだと思います?
——なんでだろう?
崔:それは日本の増え続ける社会保障費を支えるために、全体で増税の流れとなっているのです。介護保険や医療保険を持続可能な制度とするために、給与から差し引かれる年金や介護保険が増しているんです。つまり、実質賃金は上がっているのに手取りは上がらない、会社から支払われるお給料は増えているけれど手元にくるお給料は上がっていないということになりつつあるのです。
一言で言えば、税金が増えているってことなんですが、だからこそ医療費控除など受けられる控除を調べて、受けられるのであれば控除を受けてできるだけ手元にお金が残るようにするのが大事なんです。
——確かに、受けられる控除を調べることはしたことがなかったです。
崔:三つ目は、年金について考えようということですね。年金ってもらえると思いますか?
——はい。毎月払っているので、もらえなかったら困ります。
崔:いつからもらえると思いますか?
——えーっと、60歳くらいから?
崔:今は65歳ですね。私たちはいつからもらえると思いますか?
——うーん、年金の支給年齢が引き上げられて70歳くらいですかね?
崔:私は最高80歳を超えると思っています。
——ひえー! 80歳!
崔:なぜかというと、ロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン博士がおっしゃるには、2007年に生まれた子どもの寿命は107歳と言われているんです。いま作られた年金システムは平均寿命が60歳の時に作られたシステム。いつまでも持つわけではないんです。さらに今の会社の働き方も平均寿命60歳時代に作られた雇用システムなんですよね。
——親の世代の終身雇用、年功序列ってやつですね。
崔:そう。でもこれからは親世代のようにはいかない。会社に依存しない働き方をしないといけないんです。副業を始めるとか、自分がいくつまで生きて、年金がいくつから支給されるのかを考えないといけないんです。年金がどうなっていくかに敏感になりながら、勉強する必要が出てきますよってことですね。
——なるほど。以上3つが働き女子が知っておかないといけないことですね。副業かあ……。そういえば最近、副業を解禁する企業も出てきていますよね。
崔:そうですね。それは「みんなが働きやすい社会を作る」っていう目的だけじゃないんですよ。
——えっ、どういうことですか?
崔:それは次回にお話しましょうか。お給料をアップする方法とも関係があるので次回たっぷり解説します。
——はい、お願いします!
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)